分子磁性研究では、有機強磁性、スピン平衡、スピン・フラストレーション、光磁石、単分子磁石、キラル磁性など、さまざまな研究テーマが検討されてきた。このような開殻電子系では、金属イオンや配位子のバレンス変化がスピン状態や磁気的相互作用の変化に直接反映されるため、系の酸化状態の変化によって、その磁気的性質が劇的に変化する。系のレドックスを固体状態のまま自由に制御することができれば、自在に磁気的性質を生み出すこと可能となる。本研究では、MOFや単分子磁石など、特異な磁気特性と可逆な電気化学レドックス活性の持ち合わせた系について、さまざまな電気化学operando計測を実施し、固体電気化学分子磁性とでも呼ぶべき研究領域を2国間の共同研究によって大きく発展させ、これを通じて若手人材の育成を行う。
2. 科学研究費補助金 特別推進研究 (2020.7-2025.3)
「分子性強等方性構造の化学構築と機能開拓」
本研究では、数学的に「強等方性(Strong Isotropy)格子」として特徴付けられているHoneycomb、DiamondおよびK4格子を、分子結晶や金属有機構造体 (MOF)、共有結合性有機構造体 (COF)などにおいて合理的に「自在合成」し、電気化学的Band Filling 制御などを通じて、強等方性格子のトポロジーに起因する「電子機能」(例えば、Dirac電子物性、Flat Band、トポロジカル絶縁体、Spin Frustration、キラル強磁性、超伝導、Photonic結晶効果、光電荷分離など)を探求する。
■ 科学研究費補助金 基盤研究(S) (H28-R2特別推進研究へ移行)
ユビキタスな物質や手法による新しいエネルギー変換や情報変換の実現は危急の課題である。2次電池や色素増感太陽電池などを研究対象としてきた固体電気化学だが、近年、電気2重層トランジスタや分子性2次電池の研究が急速に進展し、ますますその存在感を増している。本研究では、レドックス変化と電子およびイオン輸送が複合化された電気化学プロセスを、分子物性科学や有機エレクトロニクスに展開することによって、新しいエネルギー変換や情報変換の方法論を確立する。
■ 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)(2019.4-2021.3)
「フラットバンドの化学構築とバンドフィリング制御」
これまでの研究により、C3対称性をもつ分子がハニカム格子に結晶化すれば、必然的にDirac coneやフラットバンドが形成されることを見出している。この物質設計指針に従い、トリプチセン骨格に、ドナーやアクセプター性、あるいは金属イオンへの配位能をもつさまざまな置換基を導入し、分子間の電荷移動相互作用や配位結合によって強固な分子性ハニカム格子を合成する。その次のステップとして、固体電気化学などの手法を用いて、分子性ハニカム格子に関するバンドフィリング制御に挑戦する。すなわち、当該物質を電極上に配して電解質に浸し、電極電位の制御によって系のフェルミエネルギーを連続的に制御する。
「炭素同素体トポロジーと分子自由度の結合による新規物性の開拓」(H30~H31)
ダイヤモンドやグラフェンといった炭素同素体が、結合トポロジーの差異のみによって全く異なる物性を示すことは言うまでもないが、炭素同素体の炭素1個を、その結合トポロジーを保ちながら分子1個に置き換えることができれば、「分子性炭素同素体」とでも呼ぶべき物質群を構築できる。そこには、トポロジー対称性と分子自由度が複合化された、トポロジー物性物理学の更なる高みが存在することは疑いない。本研究では、合理的な分子設計に基づき「分子性炭素同素体」の合成を進め、分子自由度と炭素同素体トポロジーの結合から生まれる量子効果や機能性を探求する。
■ 公益財団法人 旭硝子財団 研究助成プログラム(H26-H29)
「微粒子がつくる固液界面を利用した蓄電機能と光電子機能」
日本-英国-カナダ-ロシアの研究者が、「物質合成」「基礎物性探索」「デバイス展開」研究において役割分担し、「有機伝導体・磁性体研究」⇔「有機エレクトロニクス研究」の双方向研究から、基礎と応用においてwin-winの革新的成果をもたらす。
電子対形成による安定化から解放され、それゆえスムーズな移動が約束された不対電子をもつさまざまな開殻化学種(有機ラジカル、金属錯体、金属クラスター錯体、常磁性ナノ粒子など)を研究対象とする。それらを電極表面上にナノ配列させ、光や電場などの外場をトリガーとして生じる高速かつ効率的な電子移動を利用し、新しい蓄電機能や光電流変換機能を研究する。